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鳥取地方裁判所 昭和46年(ワ)65号 判決 1974年5月29日

原告 西尾巌

右訴訟代理人弁護士 田中節治

被告 合資会社横井鉄工所

右代表者無限責任社員 横井金右衛門

右訴訟代理人弁護士 軍司猛

主文

被告は原告に対し金四九万七一二〇円及びこれに対する昭和四六年四月二七日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

但し、被告において金三〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金一〇六万円及びこれに対する昭和四六年四月二七日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張並びに答弁

(原告主張の請求原因)

一  訴外有限会社北星スポーツ製作所(以下「訴外会社」という)は運動器具の製造販売を目的として昭和四三年四月設立(本店所在地鳥取県気高郡鹿野町鹿野一〇四七番地)され、原告は右会社の代表取締役であった。

被告は、各種機械類の製造販売を営むものであるところ、訴外会社は被告より昭和四三年四月二六日頃から同年七月八日頃までの間、別紙第一目録記載の機械を代金計金三一七万〇〇三五円で買受け、その頃内金一〇四万二七六九円を支払ったので、残代金は金二一二万七二六六円となった。

二  訴外会社は、被告の職員による機械の据付不良等から操業が遅れ、間もなく資金難に陥入り、被告会社に対する機械購入代金の支払いも困難になったので、昭和四三年八月末頃被告の事務所で、訴外会社及び原告と被告との間に「被告は訴外会社に対し同年九月一日付で金一〇〇万円の融資(貸付け)をする。右融資の方法は、訴外会社振出しの額面金二五万円の約束手形二通(計金五〇万円。以下「訴外会社振出手形」という)を被告に送付し、被告が現金に換えて訴外会社に送金する。一方被告振出しの額面金二五万円の約束手形二通(計金五〇万円。以下「被告振出手形」という)を訴外会社に送付し、訴外会社はこれを現金に換えて使用する。その返済は、訴外会社が昭和四三年一一月より翌四四年二月まで毎月末日限り金二五万円ずつ四回に分割して支払う(以下「本件融資契約」という)。原告は、右訴外会社の被告に対する右融資債務につき被告に対し個人保証をし、かつ、原告所有の宅地・建物をその担保として被告に差入れる(以下「本件保証並びに物上保証契約」という)。」との契約を締結した。

三  原告は、右契約に基き同年九月一日頃訴外会社振出手形(二通)及び担保差入証書を作成して被告に送付し、被告から被告振出手形(二通)の送付を受け、これを現金に換えるため努力していたところ、被告から「訴外会社振出手形の金五〇万円は送れない。なお、被告振出手形は金融機関で割引いてくれるな。」との通知を受け、結局融資の途を絶たれた訴外会社は窮地に陥入り、被告に対する機械代金の支払いができない状況に立至り、その上、被告は別紙第一目録記載の機械のうち、バット自動削機を除くその他の機械全部を引揚げて持ち帰ったので、訴外会社は倒産の止むなきに至った。

四  そこで原告は、被告に対し、「被告に差入れた担保差入証書と訴外会社振出手形(二通)」の返還を求めたところ、被告は右訴外会社振出手形(二通)は返還したが、担保差入証書については言を左右にして返還せず、昭和四五年六月二五日頃右の担保差入証書を不法に使用し、それを疏明書類として原告所有の別紙第二目録記載の不動産につき仮差押(以下「本件第一仮差押」という)をし、更に同年七月八日原告所有の別紙第三目録記載の不動産に対し仮差押(以下「本件第二仮差押」という)をした。

そして被告は、訴外会社に対する前記機械売渡残代金のうち、金一〇〇万円について原告が個人保証をしたとして、原告を被告として名古屋地方裁判所に対し保証債務支払請求の訴(同裁判所昭和四五年(ワ)第一七七三号。以下「本件保証債務支払請求事件」という)を提起した。

五  原告は、訴外会社の機械買受代金債務の支払いについて、被告に対し個人保証をしたことはなく、したがって断呼応訴し、鳥取県弁護士会所属弁護士田中節治に右訴訟の遂行を委任した。

そして、右訴訟の進展に伴い、被告はその非を悟り原告に対し「訴の取下」の申出をしたが、原告はこれに応じなかったところ、昭和四六年二月二六日の第四回口頭弁論において被告より仮差押の保証金の還付と本訴の取下げについて和解の申入れがあり、原告は損害賠償請求の権利を留保して和解に応じた。

六  被告は、原告が訴外会社の機械買受代金債務につき、被告との間に個人保証をしていないことを十分承知し、かつ、前記の融資も全然受けられなかったのであるから、右の融資を受けるために原告が差入れた担保差入証書の返還をすべきであるのに、これが返還請求に応ぜず不法に前記のとおり本件保証債務支払請求事件を提起し、原告所有の不動産全部に対し本件第一・二仮差押を執行し、原告の名誉と信用を毀損すると共に、応訴に伴う損害を生ぜしめた。

右原告の蒙った損害は次のとおりである。

(1) 金一〇万円

右は被告の不法な訴の提起により弁護士田中節治に委任して応訴した着手金(訴額の一割)。

(2) 金一六万円

右は弁護士田中節治が右訴訟の口頭弁論期日に出頭するため名古屋市(地方裁判所)に出張するに要した費用(旅費・日当・宿泊料等)として同弁護士に支払った金員(四回分)。

(3) 金一〇万円

右訴訟において、被告との間に和解成立による謝金として弁護士田中節治に支払った金員(訴額の一割)。

(4) 金二〇万円

右は、原告がその所有の鳥取県八頭郡智頭町南方字中島一一八七番地、一一九〇番地田一三八八・四二平方メートル(一反四畝。以下「本件売渡土地(田)」という)を、昭和四四年一二月一日訴外寺谷英太郎に売却していたところ、被告から昭和四五年七月六日仮差押を受けたため引渡しができず遅延したことにより買主から契約不履行による損害金として請求され支払った金員。

(5) 金五〇万円

被告がした前記の不法な本件第一・二仮差押により原告が蒙った信用毀損による精神的損害金。

七  よって被告に対し、右合計金一〇六万円及びこれに対する昭和四六年四月二七日(本件訴状送達の翌日)以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の答弁)

一  原告主張の請求原因第一項記載の事実は認める。

二  同第二項記載の事実のうち、「被告の職員による機械の取付けが不良であった。」、「訴外会社は昭和四三年一一月から昭和四四年二月まで毎月末日限り金二五万円ずつ四回に分割して支払う旨合意した。」との点をいずれも否認し、その余の事実は認める。

但し、原告の担保差入れは、被告の訴外会社に対する融資金債権に対する担保としてのみではなく、原告主張の請求原因第一項記載の訴外会社に対する機械売渡残代金債権の担保とする意味をも有していたのである。

三  同第三項記載の事実のうち、「融資の途を絶たれた訴外会社は窮地に陥入り、被告に対する機械代金の支払いができない状況に立至り、その上、被告は別紙第一目録記載の機械のうち、バット自動削機を除くその他の機械全部を引揚げて持ち帰ったので、訴外会社は倒産の止むなきに至った。」との点を否認し、その余の事実を認める。

被告が、その売渡した機械を引揚げたのは、昭和四四年七月一四日ないし一五日頃であるところ、訴外会社は既にその約一年前に倒産していたものである。被告が右機械を引揚げたときは、一年近くも使用されず雨漏りする工場に放置されたままになっていたのである。

四  同第四項記載の事実のうち、「原告が被告に差入れた担保差入証書と訴外会社振出手形(二通)の返還を求めた。被告は担保差入証書の返還請求に応ぜず、これを不正に使用した。」との点をいずれも否認し、その余の事実を認める。

被告が、訴外会社振出手形(二通)を返還したのは、訴外会社が倒産したので被告が進んで返還したもので、原告から請求があったからではない。

五  同第五項記載の事実については、「原告が訴外会社の被告に対する機械買受代金債務について被告との間に個人保証をしたことはない。訴訟の進展に伴い被告はその非を悟り原告に対し「訴の取下」の申出をした。」との点を否認し、その余の事実を認める。

六  同第六項記載の事実のうち、「被告が、本件保証債務支払請求訴訟を提起したこと、右訴訟で原告が弁護士田中節治に委任して応訴したこと及び被告が原告所有の不動産に対し原告主張のとおり仮差押をしたこと」、はいずれも認める。その余の事実は否認する。

七  被告の反論

1 原告は、昭和四三年八月頃訴外小谷輝雄(原告と共に訴外会社の共同経営に当っていた)と共に被告方を訪れ、「訴外会社の運転資金が足りないので一〇〇万円程融資して欲しい」旨申入れて来た。被告は当初右申入れを断っていたが、原告らは「融資が受けられなければ機械代金の支払いもできなくなる」旨述べて執拗に融資を懇願した。

被告としては、当時から既に訴外会社に売渡した機械代金の回収に不安を感じており、特に訴外小谷については、「被告は以前にも右小谷が事実上専務と称してその経営に当っていた橋井バンブー工業株式会社に対し、約金二五〇万円相当の機械を売渡し、残代金一二〇万円ないし一三〇万円が未払いになっていたところ、右小谷から懇請されて金八〇万円の融通手形を発行してこれを小谷に割引き使用させたのに拘らず、小谷は全く右の機械の残代金を支払わなかった」ということがあり、信用し難いものがあったので、被告は、原告及び右小谷に対し、「訴外会社に対する前記の機械売渡残代金の支払いにつき個人保証をし、かつ、相当の担保を提供するよう」申入れたところ、原告らはこれを承諾した。そこで被告も訴外会社に対し金一〇〇万円を融資することを承諾した。

2 右の合意により、原告らが鳥取に帰って送付して来たのが前記の担保差入証書である。右差入証書には、弁済方法及び原告所有の宅地・建物が担保物件として記載されているが、前記話合いの際には弁済方法等の点については話合いはなされていなかったのである。結局、原告の方で任意に記載して送付して来たものである。そして、右担保差入証書には、前記話合いに基く機械代金の支払いを保証する意味の文言はないけれども、上記のとおり右差入証書は後になって原告の方で適宜その内容を記載して送付して来たもので、法律的知識に乏しい被告会社代表者横井金右衛門は、要するに原告らが保証する意味が書いてあればそれでよいと思い込み、特に右機械代金の支払いを保証する意味を文面に表わすよう要求しなかった次第である。

3 次に、被告は結局前記話合いに基く訴外会社に対する融資(金一〇〇万円の)をしなかったが、それは、原告においてその頃より以降訴外会社の経営の意欲を失い、会社を放り出して郷里の智頭町に帰って山仕事をし、一方訴外小谷も会社に殆んど出勤せず、大阪で兄の営む不動産業の手伝いをしている状況で、被告としては、右の状況にある訴外会社に融資しても被告の損害が増加するだけであること明らかであったので、右融資を取止めたのである。

原告は、訴外会社が倒産したのは被告が約束の融資をしなかったからであると主張するが、右は全くの言いがかりで、経営者としてなすべきことをせず、その結果被告に多大の損害を与えておきながら倒産の責任を被告に転嫁しようとするものである。

なお、被告は、昭和四四年七月頃前記売渡した機械(一部)を引揚げたが、それは原告らにおいて残代金の支払いに誠意を示さないので、被告の損害をできるだけ少くするため原告らの同意を得て引揚げたもので、決して原告に無断で引揚げたものではない。そして、右機械は、竹の野球バットを製造するために訴外会社の特別注文によって製造販売したものであったから流通性がなく、また、前記のとおり一年近く未使用のまま雨漏りのする工場に放置してあったため、修理も不可能となり、機械としての価値も全部で約四〇万円程度のものとなっていた。したがって、被告は右の機械引揚げ(金四〇万円)によっても前記残代金二一二万七二六六円からその後一部弁済を受けた金二六万五五三八円を控除しても、なお金一四六万一七二八円(被告は一六六万一七二八円とするが誤記と認める)の残代金を有していたのである。

4 以上のとおり、被告は訴外会社に金一四六万余円の残代金債権を有しており、原告及び訴外小谷は、前記のとおり訴外会社の右機械代金支払債務につき、被告との間に個人保証をしていたので、被告は昭和四五年六月原告らを相手方として本件保証債務支払請求訴訟を提起すると共に、原告所有の不動産に対し本件第一・二仮差押の執行をした。

もともと訴訟の提起によって、相手方に損害を与えた場合、その損害につき賠償責任を負うのは、当該訴訟が明らかに違法又は不当訴訟と認められる場合でなければならず、更に、この場合でも弁護士費用が損害に入るかどうかは争いのあるところであり、上記のように、原告は訴外会社の機械買受代金の支払債務につき個人保証したものであり、少くとも被告としては原告が右の保証をしたものと信じていたので前記訴訟を提起したのであって、何等違法ないし不当訴訟の提起ではない。

そして、上述のような従来の原告の態度からみて、右の本案訴訟で被告が勝訴しても原告より執行の妨害がなされることは当然予想されるところであるから、本件第一・二仮差押をしたことはむしろ当然の措置であって、何等違法ないし不当な点はない。

なお、原告は被告のした仮差押につき慰藉料の請求をするが、仮に仮差押執行により原告に生じた損害につき被告に賠償義務があるとしても、それは、仮差押によって生じた財産的損害についてであり、慰藉料の負担義務はないというべきである。蓋し、仮差押によって蒙る損害は、通常財産的損害のみであり、これについて損害賠償を認めれば、仮差押による損害のてん補としては十分であるからである。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告主張の請求原因第一項記載の事実は当事者間に争いがなく、同第二ないし第五項記載の事実については、第二項の「被告の職員による機械の据付けが不良であった。訴外会社は昭和四三年一一月より翌四四年二月まで毎月末日限り金二五万円ずつ四回に分割して支払う。」との点、第三項の「融資の途を絶たれた訴外会社は窮地に陥入り、被告に対する機械代金の支払いができない状況に立至り、その上、被告は別紙第一目録記載の機械のうち、バット自動削機を除くその他の機械全部を引揚げて持ち帰ったので、訴外会社は倒産の止むなきに至った。」との点、第四項の「原告が被告に差入れた担保差入証書と訴外会社振出手形(二通)の返還を求めた。被告は担保差入証書の返還請求に応ぜず、これを不正に使用した。」との点、第五項の「原告が、訴外会社の被告に対する機械買受代金債務について被告との間に個人保証をしたことはない。訴訟の進展に伴い被告はその非を悟り原告に対し「訴の取下」の申出をした。」との点、をいずれも除き、当事者間に争いがなく、第六項の事実については、「被告が本件保証債務支払請求訴訟を提起したこと、右訴訟で原告が田中節治弁護士に委任して応訴したこと及び被告が原告所有の不動産に対し原告主張のとおり本件第一・二仮差押をしたこと」は当事者間に争いがない。

二  まず、被告がなした本件第一・二仮差押並びに本件保証債務支払請求訴訟を提起したことにより原告に生ぜしめた損害について、被告に賠償義務があるかどうかについて判断する。

1  一般に、私人間の権利又は法律関係について紛争がある場合、自力救済を禁止し、公正な第三者による判定機関として裁判所が設けられ、そしてこの裁判所の裁判を受ける権利は憲法上保障されているところである(憲法三二条)。

したがって、権利又は法律関係に争いがある以上、裁判所の判断を求めるため訴えを提起することは当然の行為であり、仮に原告敗訴(ないし取下)となっても、その訴えの提起が健全な社会良識に照し著しく非難されるべき程度に至らない限り、相手方に生ぜしめた訴訟費用を負担する(民訴法第八九条)ことで、それ以上の損害の賠償責任を負うことは、現行法上は原則として認められていない、といわなければならない。

しかしながら、相手方は自己の権利を保全し防禦するためには応訴することが必要であり(民訴法第一四〇条)、したがって、法律上無関係な第三者に対し、又はその主張について理由のないことを知りながら(故意に)、あるいは当然知りうべきであるのに(重大な過失により)敢て訴えを提起した場合は、応訴により相手方に生ぜしめた損害について賠償する責を負うものといわなければならない。そして、このことは保全処分(仮差押・仮処分)についても同様である。

2  ところで、本件の場合をみるに、

(一)  ≪証拠省略≫を綜合すると、

(1) 訴外会社は、昭和四三年四月二六日から同年七月八日頃までの間に、被告から別紙第一目録記載の機械類を計金三一七万〇〇三五円で買受け、運動用具(主として竹製のバット)の製造をはじめたが、乾燥機等の設備改善の不良等のため、見本品約一〇〇本程度製造したのみで休業状態に陥入り、従業員の給料も支払えない状況になった。そこで訴外会社の役員ではないが事実上訴外会社の経営を担当し、訴外会社代表者(原告)及び原告個人の代理人である訴外小谷輝雄は、訴外会社が当面必要とする運転資金(したがって、右機械の買受代金の問題とは全然別である)を借入れるため、昭和四三年八月二八日頃被告を訪ね、被告会社代表者らと交渉の結果、本件融資契約を締結すると共に、原告と被告との間に、右融資契約についての本件保証並びに物上保証契約を締結し、そして右各契約に基き、同月三〇日頃原告は担保差入証書(内容は「本件融資契約の担保として原告が所有する別紙第二目録記載の土地・家屋を差入れる」というもの)を作成し、訴外会社振出手形(二通)と共に被告に送付した。これに対し被告から電話で「担保差入証書添付の右土地・家屋の登記簿謄本を送るよう」求められ、早速右の登記簿謄本を被告に送ったところ、被告から同年九月二〇日頃被告振出手形(二通)が訴外会社に送られて来たこと、

(2) 訴外会社は前記のとおり休業状態であったことから、先行き見込みがないと判断した被告は、訴外会社に対し「被告振出手形は金融機関で割引いてくれるな」と申入れ、そのため訴外会社は被告振出手形を現金化できず、更に、被告から送金される約束の訴外会社振出手形(二通計金五〇万円)についても送金がないため、訴外会社は事業閉鎖も止むなしとの状況に立至り、被告に対し、本件融資契約の履行が駄目なら事業閉鎖以外に途はないから、機械を引揚げられても致し方ない旨連絡し、被告は昭和四四年八月一八日頃別紙第一目録記載の機械のうちバット自動削機を除く機械全部を撤去したこと、

(3) 訴外会社及び原告は、被告から本件融資契約に基く融資が履行されず事業閉鎖した以上、右融資契約により振出された訴外会社振出手形(二通)並びに本件保証並びに物上保証契約に基き被告に差入れた担保差入証書の各返還を被告に要求したところ、被告は、右訴外会社振出手形(二通)は返還したが、右担保差入証書は返還しなかったこと、

(4) そして、被告は右の担保差入証書をもって本件融資契約(一〇〇万円)とは全く異なる訴外会社の被告に対する別紙第一目録記載の機械買受代金債務につき原告が保証したものであるとして、昭和四五年六月二六日名古屋地方裁判所に本件第一仮差押の申立てをし、同日その決定を得、更に、同年七月三日同一理由で本件第二仮差押の申立てをし、同月六日その決定を得、いずれもその執行(登記手続の経由)をし、かつ、右と同一理由で同裁判所に本件保証債務支払請求訴訟を提起したこと、

(5) 右訴訟において、原告は鳥取県弁護士会所属弁護士田中節治に委任して応訴し、口頭弁論期日は四回指定され、第一回を除き(答弁書擬制陳述)三回同弁護士が出頭し、その間被告(右訴えの原告)は右訴えを取下げようとしたが原告(右訴えの被告)の同意が得られず、次で和解期日(昭和四六年二月二六日午前一〇時)が指定され、同弁護士が出頭して裁判上の和解(その内容は、「(一)原告(本件被告)は被告ら(本件原告外一名)に対する本件訴え(右本件保証債務支払請求訴訟)を本日取下げる。被告らは右取下に同意する。(二)被告らは、原告が名古屋地方裁判所昭和四五年(ヨ)第八二八号及び同裁判所同年(ヨ)第八六九号各仮差押事件の保証として供託した担保の取消に同意し、同決定に対し抗告しない。(三)訴訟費用は各自の負担とする。」)が成立し、これにより本件第一・二仮差押がいずれも取下げられたこと、

以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫

(二)  右認定事実からすると、被告(代表者横井金右衛門)は、昭和四三年八月二八日前記訴外小谷輝雄と話合った際、訴外会社に対する本件融資契約につき、原告が被告に対し右融資契約金一〇〇万円についてのみ本件保証並びに物上保証契約を締結したものであって、訴外会社の被告に対する前記機械買受代金債務の保証は全くなされておらず、かつ、このことを契約締結当事者として熟知していたに拘らず、被告は敢て訴外会社の被告に対する右機械買受代金債務のうち金一〇〇万円について原告が保証したとして、本件第一・二仮差押をし、かつ、本件保証債務支払請求訴訟を提起したもので、右は、その主張について理由のないことを知りながら敢て訴えを提起した場合に当ること明瞭であるというの外はない。

したがって、被告は右本件第一・二仮差押並びに本件保証債務支払請求訴訟の提起によって原告に生ぜしめた損害を賠償する義務がある、といわなければならない。

(三)  被告は、右の担保差入証書は、本件融資契約(金一〇〇万円)の担保を目的とすると共に、その外に、訴外会社の被告に対する前記機械買受代金債務(残額金二二六万〇〇三五円)のうち金一〇〇万円についても保証(担保)したものである旨主張するが(≪証拠判断省略≫)、前記認定のとおりで、被告の右主張は到底採るを得ない。

三  そこで原告主張の損害について判断する。

1  弁護士費用について

(一)  被告が本件保証債務支払請求訴訟を提起したため、原告が弁護士田中節治に委任して応訴したことは当事者間に争いがなく、そして、前認定のとおり右の訴えの提起がことさら原告に損害を生ぜしめたものと認められる以上、原告が右田中弁護士に支払った金員は損害に当るといわなければならないところ、前記認定の審理経過、その他諸般の事情を併せ考えると、弁護士報酬(着手金・謝金とも)は金一〇万円をもって相当と認める。

(二)  また、弁護士田中節治が四回鳥取市から名古屋地方裁判所に出頭したことは前記認定のとおりであり、そして鳥取県弁護士会(鳥取地区弁護士協議会分)の定める出張・旅費規定(昭和四四年四月改正分)による旅費・日当・宿泊料を含む出張費用は、一回出張ごとに京都・大阪・神戸金三万円、東京都金五万円と定められており、名古屋市分の記載はないが、右の例からみると同市の場合一回出張ごとに金三万五〇〇〇円が相当であると認められる(もっとも、≪証拠省略≫によると、原告は弁護士田中節治に対し一回出張ごとに金四万円を支払ったことが認められるが、損害賠償請求の金額としては前記のとおり金三万五〇〇〇円をもって相当と認める)。したがって、同弁護士は鳥取市から名古屋地方裁判所に四回出張したものであるから計金一四万円となる。

ところで、前記和解調書によると、「訴訟費用は各自の負担とする。」旨定められているので、当時の民訴費用法及び同臨時措置法(民事訴訟費用等に関する法律〔昭和四六年四月六日法第四〇号〕同規則施行以前のもの)による訴訟費用としての旅費・日当・宿泊料は、右の限度で被告に請求し得ない筋合いであるところ、右の民訴費用法及び同臨時措置法による旅費・日当・宿泊料は、鳥取市から名古屋市(地方裁判所)に出張した場合一回出張ごとに金一万七二〇円、四回分計金四万二八八〇円であるから、前記の金一四万円から右金四万二八八〇円を控除した金九万七一二〇円が、訴訟費用を除く出張に要した費用ということになる。

2  次に被告がした本件第一・二仮差押による損害について

(一)  原告は、昭和四四年一二月一日本件売渡土地(田)を訴外寺谷英太郎に売渡したところ、被告が本件第二仮差押をしたためその履行が遅延し、買主たる右寺谷から損害金の請求があり金二〇万円の支払いを余儀なくされ、同額の損害を蒙った旨主張する。

(1) ≪証拠省略≫を綜合すると、被告が本件売渡土地を含む別紙第三目録記載の田畑に対し本件第二仮差押をしたのは昭和四五年七月七日頃であり(決定は同月六日)、右仮差押が取下げられたのは昭和四六年二月末頃で、その頃訴外寺谷に右本件売渡土地(田)の所有権移転登記手続がなされたことが認められ、この点について他に右認定に反する証拠はない。

(2) ところで、原告が訴外寺谷との間に右土地の売買契約を締結したという売買契約書によると、「売買契約日は昭和四四年一二月一日、売買代金二三二万円、支払方法は契約成立日に手付金六〇万円、同年一二月二八日金三〇万円、昭和四五年五月二〇日金七〇万五五三二円(計数上誤りがあるが後述のとおり)をそれぞれ支払う。残代金八一万四四六八円については原告が昭和四四年一二月一日現在鳥取県八頭郡智頭農業協同組合に対して負担する債務金五〇万円及び自作農維持資金借入金三一万四四六八円を訴外寺谷において肩替引受ける。本契約の買主〔訴外寺谷〕の右肩替引受、売主〔原告〕の所有権移転登記に関する一切の権限の委任状の引渡しは昭和四五年五月二〇日を期限とする。」と定められているところ、右売買契約の目的物たる土地の表示欄に、「八頭郡智頭町南方字中島一一八七番地・一一九〇番地、田一反四畝」(一三八八・四二平方メートル)と記載されている。

しかしながら、真実は、「同所一一八七番の二、田五八八平方メートル。同所一一九〇番の一、田四六二平方メートル」(計一〇五〇平方メートル〔三一七・六三坪〕)である。そして、右は、訴外寺谷が以前から原告より養鶏場敷地として賃借中の土地であってみれば(≪証拠省略≫による)、売主たる原告、買主たる訴外寺谷共に知悉した土地であるに拘らず、以上のような誤った記載は、他の点の誤り(たとえば売買代金二三二万円と定めながら、支払方法の分割払金を合計すると金二四二万円となる。)と共に、単に誤記として看過すことのできない疑問がある、といわなければならない。

右の疑問は、結局前記売買契約書全体に及ぶのであり、原告と訴外寺谷との間に本件売渡土地(田)の売買契約がなされたことは否定できないけれども(前認定のとおり訴外寺谷に登記手続がなされていることから)、契約日時・代金等の点について右売買契約書の記載はにわかに措信できず(≪証拠判断省略≫)、他に右売買契約書どおりの売買がなされたことを認めるに足る証拠はない。

(3) したがって、原告のこの点の主張は、その余の点(損害額等)につき判断するまでもなく理由がないといわなければならない。

(二)  本件第一・二仮差押による慰藉料の主張について検討するに、≪証拠省略≫を綜合すると、被告がした本件第一・二仮差押により、原告所有の不動産(宅地・家屋・田及び畑)全部が仮差押され、話題に乏しい山村であってみれば、不名誉な噂話しが広がったこと、及び原告所有の右不動産に仮差押の登記の記載がなされたこと、等により原告が精神的に相当の苦痛を蒙ったことが認められ、この点について他に右認定に反する証拠はない(なお、≪証拠省略≫によると、当時進行中の原告の子訴外西尾勲の養子縁組の話しが右本件第一・二仮差押をされたことにより破談になった旨述べるが、その破談が事実としても、その原因が右仮差押とどの程度関係したかについて断定し得る証拠はない)。

右認定事実に、上記の諸事情を併せ考えると、原告の蒙った右の精神的苦痛を慰藉するには金三〇万円をもって相当と認める。

3  そうすると、原告の蒙った損害は計金四九万七一二〇円(弁護士費用分計金一九万七一二〇円、慰藉料金三〇万円の合計)となる。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し金四九万七一二〇円及びこれに対する昭和四六年四月二七日(本件訴状送達の翌日)以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当として認容すべきであるが、その余は理由がなく棄却を免れない。

よって民訴法第九二条、第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢代利則)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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